相続財産の調査方法~不動産編~
被相続人が生前不動産を所有されていた場合、どのような不動産があるかを正確に把握することが非常に重要です。
被相続人の所有不動産の把握に漏れがあると、相続税の申告ミスが起こってしまったり、その間に相続人の構成や関係性等が変化してしまうと、把握が漏れてしまった不動産について再度遺産分割協議をしようにも遺産分割協議が難航してしまうといった事態に発展する可能性があります。(相続による不動産登記)
そのため、被相続人名義の不動産は余すことなく、慎重に調査をする必要があります。
相続時の不動産の調査方法の一例を挙げさせていただきます。
固定資産税納税通知書
毎年1月1日時点で登記簿に記載された所有権登記名義人等に対し、不動産の所在する市区町村から毎年4月以降に最新年度の「固定資産税納税通知書」が送付されます。
「固定資産税納税通知書」には納税額のみでなく、不動産の地番・地目・地積などの明細が記載されており、「固定資産税納税通知書」を確認することにより、おおまかに相続不動産を把握・特定することができます。
自治体によっては免税点以下(固定資産税・都市計画税は、課税標準額が30万円未満の土地、20万円未満の建物)の不動産は記載されないケースがあるため、非課税不動産(共有地・道路・墓地・保安林・崖地等)まで把握するには後記の方法等による必要があります。
名寄帳
「名寄帳」とは、固定資産課税台帳に基づき、所有者ごとの不動産の登録事項を一覧にした帳簿です。
不動産の所在地によって請求先は異なります。例えば、板橋区の不動産に関する名寄帳を取得したい場合は板橋都税事務所へ請求を行い、和光市の不動産に関する名寄帳を取得したい場合は和光市役所に請求を行う必要があります。
そのため、別荘など所有不動産の所在の自治体が異なる場合等は複数の自治体から名寄帳を取得することとなります。
ただし、「名寄帳」を取得したとしても、自治体によっては、共有不動産が記載されないケースもあり、必ずしも全ての所有不動産を把握できるわけではありません。
一例を挙げると、東京23区の場合、共有不動産について被相続人が共有の筆頭者でない場合等は記載が漏れてしまうことがあります。
市区町村によって取り扱いが異なるため、請求される際には、被相続人が共有の筆頭者でない不動産についても名寄帳に記載がされるか、被相続人の住所が旧住所で登録をされていても記載が漏れることがないかといったことを確認のうえ、請求をするとよいでしょう。
登記事項証明書・公図
納税通知書や名寄帳によって被相続人が所有していた不動産が特定され、該当不動産の「登記事項証明書」を取得することで該当不動産の所有者が誰であるかを確認することができます。
「登記事項証明書」は法務局で取得します。
「登記事項証明書」を取得することにより、所有者等の権利関係が分かるほか、表題部(登記記録の最初の部分に記載されています)を確認することで土地の分筆の有無も確認することができます。
被相続人が不動産を取得した日以降に分筆されていたことが判明した場合等、必要に応じて「分筆にかかる地番の登記事項証明書」も取得し、確認すると良いでしょう。
また、不動産の登記事項証明書を取得する際は、共同担保目録付きで請求します。
共同担保目録とは同一の債権等の担保として抵当権や根抵当権等を複数の不動産に設定された場合に作成される目録(登記記録の最後の部分に記載されます)で、この目録には共同担保となっている不動産の一覧(所在・地番・家屋番号等)が記載されます。
自宅の底地や建物を担保に提供した場合はもちろん、私道等の共有持分や自宅不動産とは遠方の別荘等を担保に提供した場合も目録に記載がなされるため、相続対象不動産の把握に役立てることができます。
なお、共同担保目録をつける際は「現に効力を有するもの」でなく、抹消されたものも記載されるよう「全部(抹消を含む)」の形式で請求いただくことをおすすめします。
「現に効力を有するもの」にしてしまうと、既に借入れが完済された等の要因により、担保権が抹消されてしまっているケースでは共同担保目録が記載されません。
登記事項証明書とあわせて、「公図」と呼ばれる法務局に保管されている地図を法務局にて取得し、「公図」から把握できる周辺土地の登記事項証明書をさらに取得することにより、名寄帳に記載されていない不動産の権利関係を把握することもできます。
また、所有する土地上に、既に存在しない建物の登記が残存しているケースもあるため、土地上に建物の登記が残っていないか、法務局等で調査をすると良いでしょう。
その他資料等
納税通知書や名寄帳では捕捉できない物件を調べるために、以下の資料を確認することも有効です。
権利証(登記済証・登記識別情報通知)
過去の売買契約書
過去の相続登記関係書類
過去の相続税申告書類等
また、令和8年4月までに「所有不動産記録証明制度」が施行されることになっており、この制度により自らが所有権の登記名義人となっている不動産の一覧的な証明書(所有不動産記録証明書)の取得が可能となります。施行後はこの制度を活用されると良いでしょう。
さらに被相続人名義の不動産だけでなく、被相続人が相続したものの、相続登記が未了となっている不動産も少なくありません。そのため、必要に応じて、被相続人の親族等にヒアリングをし、当該不動産の調査を行うといった対応も必要です。